那珂川先生から花菜への引き継ぎは、山口先生を交えて俺と数学準備室でやった。




できるなら今この状態で、花菜と二人きりになることだけは避けたかった。


引き継ぎはかなり長引いて、日もとっぷり暮れる頃にようやく終わった。





安堵して帰り支度を始めると、後ろから花菜に呼び止められた。



「……久しぶり……だね」

「ああ…。まあ、な」


それ以上の会話は無用と再び背を向けたが、花菜は尚も話しかけてきた。

「あの、ね。今日、少し時間……ないかな?話したい事が、あるの」

「……わり。俺今日忙しいから」



大して忙しくもないが、あまり関わらない方がいいような気がする。



いくら何でも別れた元カノと同僚なんて御免被りたい。

俺は手早く必要な書類や本を纏め、足早にその場を去った。




そして行き着いた先は……―――。

「どしたの?平日の、こんな時間に先生が来るなんて珍しいね」

華音の家。