「そう言えば、数学の那珂川先生、緊急手術だって?」


安藤さんは心配気に空席になっている那珂川先生の机を見た。


「ああ、なんでも肺の持病の方が悪化したらしくて、それで緊急手術って事になったらしいな」


横からそう答えたのは濱口さん。

いや、二人とも俺の先輩ではあるけど、一応『先生』をつけなきゃマズイか。



「そんで、櫻センセーと、もう一人の山口先生で授業切り回すの?全クラス分の数学の授業を?」


不意に会話に割って入ったのは宮藤サン。そんな事出来る訳ねーだろ。全クラス二人で授業受け持てってか?死ぬわ。


「いや、確か今日から代任の先生が入るって聞いたけど。蒼季。お前、何か聞いてんのか?」



安藤先生がそう聞いてきた。



「代任が入るのは聞いてますが、どんな先生かは聞いてないッすね」


俺も代任がどんな奴かは気になるけど、取りあえず数学科の教師二人で全クラス受け持つという、不足の事態を避ける事ができたのにはホッとした。




やがて教頭が職員に呼び掛けて、会議が始まった。


今日一日の連絡事項が早々に確認され、予定表に記入されたり、修正されたりし終わると、次に代任の教師の紹介となった。



「那珂川先生が今学期一杯、手術のためお休みを取られますので、その代任として、こちらの泉野花菜(いずみの はな)先生に教鞭を取って頂く事になりました。まず、分からない事は緒先生方に教えて貰って下さい」


教頭は振り返りながら、その代任の教師に呼び掛けた。


その教師が一歩進んで声を発する。




「泉野花菜です。分からない事だらけですが、那珂川先生がお帰りになるまでしっかり頑張りたいと思います。宜しくお願い致します」




……おい待て。嘘だろ?



泉野花菜。



大学の時、一年ほど付き合ってた……。



―――元カノ、だった―――