深層融解self‐tormenting

そして日付替わって本日行われた数学の小テストは、春臣んちにいたS高校のナントカというセンセーのスパルタ式授業のおかげで、かなり楽にクリアできた。


あれ?そう言えばあのセンセーの名前、なんだっけ?


喧嘩と食べ物の事以外覚えてくれない私の頭は、既にあのセンセーの顔と名前すら忘れている。


有名企業でお偉いさんのお父さんは、今日も遠方に接待の仕事らしいから、どうせ夜遅くじゃないと帰って来ないんだろう。

兄貴は儲かってるんだか儲かってないんだか分からない喫茶店でヤンチャ仲間と遊んだり、繁華街に繰り出したりしてるんだろう。


私のお母さんは、私が小さい頃既に他界して、既にこの世にはいない。

隣に住んでる春臣は、小さい頃から私の事を可愛がってくれた。

私も実の兄貴より、実際のところ春臣の方に懐いていた。

だって春臣の方がああ見えて面倒見良かったし。馬鹿兄貴は妹を苛めるサディストだったし。


そういえば昨日勉強を教えてくれたセンセー、兄ちゃんに少し似てなくもなかったような気がする。


昨日はかなり苛められながら教えられた。

あのセンセーの名前、後で春臣に聞いておこう。


「華音!!今日はまっすぐ帰る?」

「スーパーに寄って帰るよー。夕御飯の材料買ってく」

同じクラスの中原舞(なかはらまい)がゴミ箱を片付けながら私に聞いた。

舞は今日、日直だったっけ?


「どうせスーパーに寄って帰った後、ドロッドロの主婦向けドラマでも観るんじゃね?つか、暇ならこの後付き合ってー」

「なんかムカつく言い方じゃんよ?って言うかまた鷹嘴先生のストーキングに付き合わせる気かい!?」

「鷹嘴先生のアフターを知りたいだけでしょー。いいからつきあってよ。新作のお菓子買ってやるからさー」

「行くー!けど、鷹嘴せんせー、昨日春臣んちに居たよ?」

「げっ!マジで!?」


この前もこの手段に踊らされた気がする。

そして暫く舞がうちに居座りそうな予感もする。

だけど、恋する仲間を助けてやるのは満更良い気がしなくもない。

第一、鷹嘴先生の事を話す時の舞の目はきらきらと輝いていて、とても綺麗だ。本人には絶対言ってやらないけど。


人間、恋をするとこうも生活態度が変わるんだろうか?

恋か。

食い気優先の私には縁がない話。

第一、相手に合わせて行動する事からして、まず無理だろう。

舞はよく鷹嘴先生の生活に合わせて行動できると思う。


私だったらそんな束縛される生活は絶対無理。



でも『恋すること』に憧れている自分もいたりする。

そりゃ一応年頃の娘なわけだし。できれば優しくてカッコいい彼氏が欲しいなーなんて思うけど。

極々たまーに、下駄箱に手紙が入ってたり男子生徒に呼び出しを受けたりするが、今一つピンと来ないので、未だに誰ともお付き合いをしたことがない。

第一、告白してくる彼等の事をよく知らないし、知ろうとも思わない。



そう考えると、両思いって、すごく稀な確率なんじゃないだろうか?


舞の恋は、いつか実るんだろうか?