深層融解self‐tormenting

私は家で、先生が迎えに来てくれるのを待っている。

兄貴はどうやら友人の遊馬から車を借りたらしい。

今日、学校から家に帰ると知らない黒い車が停まっていて。

「これ誰の?」と聞いたら「遊馬の」と、至って簡潔な返事。


車はランサーとか言うらしくて、遊馬から色々と車のスペックを説明されたが、よく分からない。

だから何だとしか言いようがないじゃん。


「しっかし、何だってまた、ファントム相手にバトルを挑んだ?勝てるわけねぇだろ。俺らとは違うフィールドのヤツに」


淡々と語る遊馬の言葉に耳を傾ける。


「ヤツは純粋に速さとテクニックを欲している、謂わば技術屋だ。俺達みたいに走りもやりゃ喧嘩もやるゴロツキとは一線を画している。アイツが俺達や他のヤツのホームを荒らした事もねぇし。それに、アイツの正体がわれた時、何社もスポンサーが付きたがったのぁ有名な話だ。それにな、お前が負ければ下の奴等が黙ってねぇ。騒ぎになるぞ。止めとけ」



長ったらしい説明を聞き流しながら、兄貴はスマホで動画を観ている。

遊馬の折角の助言も、まるで無駄だったようだ。


「……4年前の氷室峠の動画観てるんだけどさ。ギャラリーが撮ったやつ。アイツやっぱ速いね。久しぶりに面白くなってきた」

「……お前は自分が楽しければいいのか」

ハア、とわざとらしく溜め息をついて遊馬もタバコを取り出した。

ジッポーで火を点けながら、今度は私の方を向き、話を変えた。

「お前さんの初カレがアイツだってのは驚きだな。オイどうやって捕まえた?」

失礼な!!人を何だと思ってる!?

「……捕まえたじゃなくて、捕まったんだもん。てゆか、何で遊馬が私に今まで彼氏がいたことないって知ってんの!?」

もしかして、兄貴の仲間達も皆知ってるのか?

「知ってるも何も。華音に手を出したかったヤツなら腐るほどいたんだぜ?だけど、[凱の妹]に手ぇ出せる強者はいなかった、って事だな」

何だと!?それじゃ何か!?私に彼氏がいなかった原因の半分ぐらいは凱のせいかも知れない訳?

ちょっとそれ信じらんない!!