薄ら笑いの凱が一歩、先生に近づいた。


「イヤだね。heavenの凱を負かしたとなったら、黙ってない連中がいるだろ、今でも」


先生も一歩近づく。


「へーぇ、負ける気ないんだ?」

「当たり前だろ。なんでホームで負けるんだよ」

「うん。俺も勝てる気はしないけどね」



兄貴が、認めた!?

先生には叶わないって。

勝負事は負けた事がないし、第一鼻っから自分で敗けを認める勝負をしようなんて、うちの兄貴は考えるヤツじゃない。




……それなのに……?


「だったら止めとけ。迷惑。大体お前の得意分野じゃねーだろ?」

「ヤだねぇ。ヤってくんないんなら、華音との付き合いは認めない」


酷い!!兄貴は先生と自分の勝負事に私の事をダシに使っただけじゃないか!?

そんなの狡いし!!

「あっ…兄貴にそんな事言われる筋合いはないし!!」


それでも抗議するのに声が裏返ったのは、兄貴がこういう状態の時に反発するのが危険だったから。


こういう時の兄貴は、困ったことに他人の話を聞く耳を全く持っていらっしゃらない。


「……なに?俺が勝ったら、華音を好きにしてイイ訳?元heavenのトップさん」


応える先生にも益々凄味が増した。

「こんなんで良ければ。俺、クルマ持ってないから、誰か下の奴に借りるけどいいだろ?」

「……ま、何がキても負ける気しねぇけど。で、いつ?」

「じゃ……明後日、氷室峠でいいよね」

「了解………華音!明後日、同じ頃迎えに来るから」