深層融解self‐tormenting

春臣は寝ぼけ眼で私を見遣ると、面倒臭げに、くあっとあくびを漏らした。

「っあー…?華音ん?」

「起きろよ女っ誑し!!早く勉強教えろ!!今度の小テストで点獲らないとヤバいんだよ!! 」

「なんだっけ?物理?」

「数学だっつんてんだろ!!1人で勉強しててもわかんねーんだよ!!」

「いや、威張って言えないからね、そういう事は」


部屋をぼんやり眺めていた春臣の視線が一点で止まった。その先を指さし、私を振り返ってへらりと笑う。


「数学ならあっこの櫻君に聞け。アイツあれでも数学の教師だから」

「春臣の方がいい。アイツなんか神経質そうでヤダ」


だってアイツ、如何にも【THE・数学教師!】みたいな雰囲気なんだもん。苦手な雰囲気びしばし感じるもん。問題出来なかったら絶対馬鹿にするよ?

「教えてやってもいいですけど?ただしテメーには見返りを要求すんぞ」

「見返りって何をだよ?」

「さあねぇ…。考えとく」

うわ、しかも見返りまで要求してきた。

春臣の悪行のおかげで世のセンセーの事を『聖職』だとは思えなくなってる私には、櫻センセーとやらがニヤリと笑って呟く見返りも、如何わしいコトに違いないと確信を持って言える。

「やっぱお前やだ。春臣に教えて貰う」

「いいからぐだぐだ言ってないで教科書筆記用具持って来い」

うー…と睨んで櫻センセーを見たが、今度は淡々と喋る様子に少しだけ警戒を溶いた。

「良い点取らねーと、ヤバいんじゃねーの?」

うぅぅ…。背に腹は変えられない。取り敢えずテスト範囲内だけでも教えて貰うとしよう……。