車はオートマじゃなくて、ギアを入れ換えるマニュアル車ってやつ。



黙って運転に集中するセンセーの顔は、それはもう真面目そうにまっすぐ前を見たままで。


そしてそれが、時折街灯や対向車の光に照らされると、無表情な顔が浮かび上がり、なんとも言えない色気をかもし出している。





……ちょっと、やだ。私今『色気』なんて感じたとか思った!?

相手はあの変態なのに!?



だから助手席って嫌なんだ。



狭い空間の中で異性とくっつくなんて、拷問じゃなかったら何なんだよ。


一人悶々と車の外を眺めていたら、やがて人気がない急な坂の山道に入った。





山の頂上付近まで来ると、割と広目のロータリーに車を止めて、アキせんせーが言った。




「この峠は昼間でも通る車が少ない。だから、夜に走るにはうってつけのコースだ」

「……今から何すんの?」

「下り坂を車で降りるだけ。ただ、飛ばすから喋んな。舌噛むぞ」

「……命に危険は……?」


「かなり、ヤバい」


危険な顔でニヤリと笑うアキせんせーは、見たこともないぐらい凄味を帯びている。




思わずぞくりと鳥肌がたった時、「じゃ、イくぞ」と声を掛けられた。



なんだ?と思う間もなく車は加速していく。


あっという間にスピードをあげたアキせんせーは、巧みにギアをシフトチェンジしながらハンドルを捌いていく。



大きなカーブに車体を投げ出すように車が揺れた。




音を響かせてカーブを曲がる。



遠心力で右や左に揺らされながら、嫌でもアキせんせーの顔が視界に映ってくる。



ギアに置かれた、細くてキレイな指先、長い足は忙しなくペダルを踏み替えしてる。