深層融解self‐tormenting

そう言やクリスは日本の温泉って、入ったことなかったよね。


私達が来る前にひとっ風呂浴びたのが楽しかったらしく、また入りたいと連呼していた。


支配人さんはにこにこ笑いながら、それに相槌を入れたりクリスが知らない温泉の効能について語っている。



クリスは私と一緒に混浴に入りたいなんて言いだしたけど、クリスに混浴なんて言葉を教えたの、誰だ?……まぁ聞かなくても分かるけどさ。



やがて香り豊かなコーヒーが運ばれてきて、会話がふつり、と止んだとき。



支配人さんがぼんやりとカップを見つめながら、口を開いた。




「……さっき、息子達から電話が来ましてね。お話を聞かせてもらいました」

「あぁそうですか。それで?」



先生ってば!


なんでそんなに喧嘩腰なんだよ!?



「あの時、柚希とボール遊びをしていて、私は柚希のボールを取れなかったのですよ。……結局、柚希は見つかりましたが、沖に流されたボールは見つからないまま……だったのですが……」

「どこかにあったんじゃないですか?それとも誰かが拾ってくれてたのかも知れないですしね」


わぁ、けんもほろろ。


先生ってば。私がゆずに関わるのを、まだ本気で心配してるんだ。



「……息子達二人がね、やり直したい…と、さっき言っていたんですよ。今までは私が一人で住んでいたあの家に戻って、皆で柚希を弔っていきたい…と」



ほぅ、と私は安堵の溜め息を漏らした。



良かったじゃん、ゆず。


これでお父さんとお母さん、それにお爺さん、皆がゆずの事を見ててくれるんだよ。



「ゆずも、これで浮かばれると思います」


にこっと笑って、支配人さんの皺だらけの顔を見れば、支配人さんも憑き物が落ちたようなスッキリした表情で私を見ていた。



「……本当に大丈夫かよ?もう危ない目に遭ったりしねぇ?」


けれどもまだ猜疑心に悩まされている人が約一名。



苦笑した支配人さんは「もう大丈夫ですよ」と、先生に向かってもお礼を述べていた。