深層融解self‐tormenting

「そっ…か。だけどゆず、お爺さんに我が儘を言ったり意地悪しちゃ駄目だよ。あれじゃお爺さんが可哀想でしょ?」



手を頭に移して、ゆずの頭を優しく撫でた。


うちはお父さんは放任主義だし、お母さんは早くに亡くなっているから、少しだけはゆずの気持ちが分からなくもない。



「うん。じいじはあのときボールをひろってくれなかったけど、かのんちゃんがボールをひろってくれたから、もうだいじょうぶ。ゆず、かのんちゃんにあえてうれしかったよ」

「私もだよ?だけどそろそろ旅館に戻ろっか。お爺さんも心配してるよ?」




だけどゆずは、それには答えず、ただ儚く笑うだけだ。


「……ゆず?帰ろう?」



手を差し出したけど、何故かゆずとの距離が開いていく。


だけど、幽かに聞こえた。


ゆずの囁くような、小さな声が。





「かのんちゃんのおかげで、ゆずはもうだいじょうぶだよ。……だけど、最後のわがまま……。パパと…ママには……」





そこから先はざあざあと耳許で舞い散る桜のせいで、聞き取れない。



桜吹雪がいよいよ激しくなり、薄紅色に視界が包まれて、ゆずの姿を隠してしまう。




「ゆず!? どこ!?」



不安に駆られた私は、必死でゆずの名前を呼ぶ。だけどゆずからの返事はもう、ない。







桜吹雪は止むことなく舞い続き、私を囲んで……そこからは意識が朦朧としてしまい、目の前が真っ暗闇に閉ざされた私は……やがて私は気を失った――――。