深層融解self‐tormenting

「ようやくカノンの目が生き生きしてくれた」


私の両頬を手で挟んで、コツンと額をくっつけるクリスは、とても切ない表情をしている。


「昨日から、カノンの目が何も映して居ないようで……。ごめんな、俺がちゃんと見てなかったから、怖い思いをさせてしまった」



クリスの顔は、苦痛に耐える修験者みたいに暗く、歪んでいる。

「……アキも、凄い心配してて、辛かったと思う……」



先生にも、心配かけてたんだ。



「……だからさ、カノンも無事大学に合格したんだから、明後日はどっか泊まりに行こうかって、アキが言ってた」



………は?

今、何か仰いまして、クリス君?


「聞いてないけど。そんな事」

「うん。俺の携帯に今日、直接アキから連絡が来た。スキーとか、スノボとか良いよね?カノンの誕生日プレゼントに」


いや、いいけど!スキーは一回しか行ったこと無いからまた行きたいとは思ってたけど!!


「……だって、誰々が行くの?」


クリスが指折り数えだした。


「俺とカノンにアキ、カイ、ハルオミ、タカノハシ。それとアキのお姉さんと、アンドーとか言う先生も着いてくるって」


……なんでそんな大所帯。しかも明後日とか急過ぎないか。


「気晴らしに行こう、カノン」



その夜、先生も家に来て、明後日の私の誕生日にスキー旅行に行こうと誘ってくれた。


二人にそこまで言われれば、嫌だと言う理由もない。とうとう二つ返事で「やっぱスキー行く」などと言っちゃう現金な私。


そんな私を見て、先生も穏やかに笑って頬を撫でてくれた。その指先の暖かさで日常に戻れたことを実感できる、幸せ。

先生、大好き。口には出さないけどね。