深層融解self‐tormenting

「……何も、されなかったか?」

「……クスリ、打たれそうになった。せん、せ……」



怖かった。

本当は、凄く怖かったんだよ。

「打たれてねーな。拉致されるとき、麻酔薬を嗅がされただけみたいだな。針の後もねーし、煙の臭いもしねーから。大丈夫。ギリギリ間に合った」

「……カノン。守れなくて、ごめん。アキやタカノハシが、カノンをみつけてくれた。………無事で、良かった……」


クリスがそう言った時には、もう涙が堪えきれなくなってしまっていて……。



「……こわっ…かった……。みんなに、もう会えないんじゃ、ないか、って……!!」

号泣する私をあやすように、先生は背中を撫でてくれた。



泣き止むまで、ずっと。

クリスは、それを眺めながら、何処へともなく消えていた。




ようやく落ち着いてきた私に、先生は自分の上着を脱いで着せてくれ、それから抱っこして街の通りへ出た。


その建物の回りが人で溢れかえっている。大半が若い外国人達だったが、なかには日本人の若い者、それに警察や、風貌の悪いオジサン達も混じっていた。


先生がタクシーを拾って、一緒にそれに乗り込む。


「先生!クリスは!?」


先生は落ち着いて、タクシーの運転手に行き先を告げた。


「あの建物の横に、ブラジル系日本人が出してたクラブがあって、そこが拠点だったんだよ。違法薬物や盗難車を売買する、ブラジルの少年達による犯罪組織のな。鷹嘴さんと宮藤サンにクリス、それに凱がたった今まで、あそこで暴れてた。宮藤サンが知り合いの警察に通報したから、宮藤サン達もそろそろトンズラしてる筈」


まだ少し震える声で、更に質問した。


「なんで、あそこが分かったの……?」


先生は私の肩を抱き寄せて、答えてくれた。


「アタリをつけたのは鷹嘴さん。あの店にクリスが入って、お前がどこにいるのかを調べてくれた」



皆に迷惑を掛けてしまったんだ、と思うとまた泣けてきて、先生にしがみついた。