そうこうしているうちに、手下と覚しき二人組が、トレンチに注射器と透明な小瓶を運んできた。


うわ……。万事休す。


私、どうなんの?ここでまさかクスリ漬けにされたりする訳?


男達は手慣れた様子で、黙々とクスリを注射器の中に注入してしまった。


………そんな事になるぐらいなら……。




「死んでやるわ!!!!!!」



私がそう叫ぶと同時に、部屋の外から何かを叩きつける音がした。


続いて、蹴破られるドア。



「華音!!無事か!?」


大音量で私を呼ばわった声を、聞き間違えるなんてあり得ない。


「っ……先生っ!!」


先生が、来てくれた。


その声を聞いた瞬間、安心して足元から私は崩れ落ちた。


その間にも先生は、向かってくる男達を殴り、蹴り、一人ずつ戦闘不能にしていく。

だが、私の腕は、相変わらずあの男にしっかり掴まれたまま。

手首もロープからは解放されていない。


更に悪いことに、その男は注射器を私の腕に当てていた。


先生もそれを見て、手を出しあぐねてしまう。



先生とその男が、互いに相手の出方に意識を集中する中―――。




意表を突き、そこに飛び込んで、私を男の腕から解放したのは……。クリスだった。




クリスはその男に馬乗りになると、数発の拳を鳩尾や顎、耳に叩き込み、相手が動けなくなると、靴先で男を蹴り飛ばした。




その隙に、先生が私に駆け寄り、手首の枷を外してくれた。



「大丈夫か!?」



先生の目には不安と安堵が混じっていて。それを見ただけで、大粒の涙がこぼれ落ちた。



「………大丈、夫」



こんな時に強がったってしょうがないのに。


だって、それしか言えないじゃない。