全ての物が、フィルター越しに覗いたようにしか見えない。



相手の組織の全体図も、後ろ楯も分からない。

カノンがどこに拉致されたのかさえも。


電話を切ったタカノハシの襟首を掴んで食いついた。

「カノンがどこに居んのか、分かんねーのかよ!?」

するとタカノハシは苦笑して「煩ぇよ」と、素っ気なく答えて俺の手を離した。


「外国人による犯罪だ。これが暴力団なんかと組んで事を起こすんなら、こっちとしても調べようがあるんだが、今度の奴等は、どの組とも手ぇ組んでねぇ。っつー事は、選択肢があり過ぎて、的が絞れねぇんだよな……」


タカノハシはタバコをくわえたまま、天井を見上げて一人瞑想するかのように目を閉じた。


「あの酒の薬剤が合法の国……中国、香港、台湾……違うな。イラン、韓国・朝鮮、フィリピン、タイ………。これも違う。と、なると……。ブラジル、ペルー、アメリカ。その辺りか……」


「その辺りが、相手に近いのか!?」

叫び声は悲鳴に近かっただろう。タカノハシはそれに答える様子はなく、未だ思案に耽っている。


「……S高に、ブラジル人の留学生が居たはずだな、確か。お前、そこでちょっと待ってろ」


タカノハシはそう言うと、今度は自分の携帯を取り出した。



電話を掛け終わると、タカノハシは俺に向かって指示を出した。



「今からS高に行って、俺の言う通りに動け。雲母に繋がるかも知れねぇ」