その日、5時間目の体育が終わって着替えた後、トイレに立ち寄ったら誰かに呼び止められた。同学年だけど、違うクラスの女子生徒だったと思う。



「雲母さんだよね!?」


何の用だと、訝しげに無言で彼女を見た。


切羽詰まった声で私に話し掛ける彼女が、何かに焦っているのは明白だったので、「そうだけど、何か用?」などと、ついこちらも釣られて警戒の色を露にした。


「中原さんって、雲母さんのツレだよね?さっき体育館の裏で、若い男の人達に囲まれてるのを見たんだけど……。ヤバい雰囲気だったよ!?」


親切心からその子は教えてくれたのだろうが、私の内心の葛藤は、嵐みたいに荒れ狂っている。


まさか、舞が『奴等』に拉致された?


最悪の予想に雁字搦めにされた私は、クリスや鷹嘴先生に連絡を取る間もなく、急いで体育館裏へと駆け出した。


あの時、舞の顔も覚えられてしまったはず。だとすれば、狙われる危険性は舞もあったはずなのに。



急いで体育館裏に行ったが、そこには誰も、いなかった。

もう連れ去られた後なのか!?


背中を一筋の冷たい汗が伝う。



その時。



背後からツンとした臭いの布で鼻と口を塞がれた。



私が覚えているのはそこまでで、最後に見えたのは、やたら黒光りする靴の先だけだった……―――。