深層融解self‐tormenting

無言で移動する鷹嘴先生達の後を追うのは、私と舞にとって至難の技だった。


やがて鷹嘴先生達は繁華街の中へ入り、一軒のクラブへと足を進めた。

「……どーすんの?私達じゃ、入れないんじゃない?」

「え…えー…。どうしよ」


最早面倒事に巻き込まれたくなくて、早く帰りたい私と、鷹嘴先生を追って中まで入りたい舞の葛藤で、時間だけが過ぎていく。


そこで果たして何を閃いたのか、舞はいきなり「heavenの名前を出せば良くね?」なんて言い出した。

……も一回言って?



「だからさ、あの『凱の妹です』って華音が言ってくれたら、店の中に入れるかも知れないじゃないよ?だからね、お願い!」


えぇー!嫌だなぁ……。散々渋ったけど、私がうんと言うまで、舞はその場から動きそうになかった。



だから、仕方なしに……。どうせ駄目元だ、と入り口に佇んでいた黒服のオニーサンに向かって言ってみた。


「あの、私、雲母凱の妹なんですけどぉ…。って言っても、やっぱり入店なんて出来ないですよねぇ?」


ところが意外や意外、私が『凱』の名前を出した途端に、そのオニーサンの顔色が変わった。

そして携帯で、何やら指示を仰いでいる。お?これはもしかして、中に入れるかも……。と思ったのも束の間、私達は屈強な男達に囲まれてしまった。


私達を取り囲む輪の中から、リーダー格の男が一人出てきて、私の顎を持ち上げて聞いてきた。


「……凱がお前らを寄越したのか?」


は?知らないし。


舞は怯えながらも、私の横にぴたりとくっついて。



「おい、中に連れてけ!」


そのリーダー格の男が回りの男達にそう指示する頃には真っ青になってガタガタ震えていた。

この根性なし!アンタがどうしても中に入りたいってワガママ言ったんでしょうよ!


必要以上に何回もボディチェックされる私達。


チェックしていた男が「金は持っていません!!」と報告し終わる頃には、さすがに私もヤバい一線を越えた事に気が付いた。