「カノン。今からちょっと、出掛けない?」
その日の夜、お風呂から上がって居間で寛いでいると、クリスがそう聞いてきた。
「出掛けるって……。どこに?」
激しく疑問に思った私は、素直に『うん』とは言わなかった。
「いいとこだよ。ほら、準備して。暖かいの着てきな」
強引にでも私を連れ出そうとする、クリス。
「…えー……。私も、行くのぉ!?」
だがクリスは、最初から私の事を連れ出したい様子だ。
「いいとこだから、早く」
そう言って、私が着替えてくるのを玄関で、足踏みしながら待っている。
外に出ると冷たい空気が、一瞬で体の熱を奪った。
「さっ…むい!」
「車暖めておいたから、乗れよ」
促されるまま右側の助手席に腰を降ろした。
クリス、どこに行くんだろ?道とか知ってるのかな?
こっちに来て最初の頃よりは、この辺の地理も覚えたみたいだけど。
車は繁華街を通り越し、郊外を抜け、やがて誰も通らないような山道へと進んで行った。
こういう道、先生とよく来たな……。下りでスピードを出して貰うのが、好きだった。
今度はいつ、先生の車に乗れるかな……。

