深層融解self‐tormenting

寒さは段々厳しくなってきて、街路樹もすっかり丸裸になっている。


人肌が恋しい。


そんな季節。



映画館の中は人影も疎らで、私達は一番後ろの真ん中を占領出来た。


映画の中身はと言えば、原作付きを実写化したら『こんなもんだよな』ぐらいの出来で、大体予想通りと言うか。

可もなく不可もなしといった感じだ。


「あれさ、漫画と話が少し違ったよね?」

映画を見終わると、意外にもクリスがそんな事を言ってきた。


「あれ?クリス、漫画を読んだ事あるの!?つか、やっぱ実写化は駄目だよね」

「カイの店に置いてたのを読んだよ。漫画は面白かったけどなぁ……」



意外や意外。クリスも読むんだ、漫画なんて。


「日本の漫画は面白いからね、イタリアでも人気あるんだよ」

「え、そうなの!?」


クリスは悪戯っ子みたいにニシシと笑っている。


「イタリアの日本語塾で、一緒に勉強してた何人かが所謂『OTAKU』ってヤツでさ、俺が日本に行くって言ったら、『絶対秋葉原には行かなきゃ!』って言うんだよ。気になって、旅行誌読んだけど、どうも雰囲気が無理みたい。俺には」


クリスがそれを思い出してか、尚も笑っているので、私もそれを想像してみた。



「お帰りなさいませ、ご主人様」ってか?

………ないな。うん。あり得ない。



「何、ニヤニヤしてんの?」

見咎めたクリスが、私の脇腹を擽った。

「……クリスがメイド喫茶に行ってるとこ想像したら、笑えて来た」

ぷふー、と、クリスの顔を見上げて吹き出すと、クリスは憮然として抗議した。

「やだね、だって一緒に飲み物を飲むだけだろ?つまんね」

おいおい、メイド喫茶に行ってメイドさんとナニをしようと期待しているんだ、君は。