呆気に取られたカノンがまだ呆然としていたので、俺はその手を取った。


「学校の中、案内して?」


我に返ったらしいカノンが「あ。行こっか」と言って、歩き出した。


学校の中は小さな祭り会場になっていて、お化け屋敷や屋台、演劇部の舞台などを見て楽しんだ。


「ね。女の子達がクリスの事見てるよ?」


こっそりカノンが耳打ちした。


そんなの別に興味ない。問題はカノンだよ。

カノンの方こそ、最初からずっと、男共に見られてるって、そんな事知ってる?


「じゃ、場所を変えようか」

そう言って、体育館を後にした。


そして辿り着いた、もう使われていない空き教室で、俺とカノンは机に掛けて、疲れを癒している。


「あーもう。こき使われっぱなしで疲れたでしょ?」


カノンが、コキコキと肩の間接を鳴らした。


「いや、全然。カノンの事が気が気じゃなくて、それどころじゃなかった」


顔を見合わせて二人でふふっと笑い合った。



「高校最後の行事がまた一つ、終わっちゃったなぁ…」


窓の外を眺めるカノンの顔は、寂しげだった。


「……思い出……」

そう呟いた俺を、振り替えって見つめるカノン。


「思い出、作りたい」

「?どんなの?協力するよ?」

無防備に顔を近づけて来たカノンを、胸に閉じ込めた。