深層融解self‐tormenting

分からない所を高梨君に聞いたり教えたり、集中して勉強を進めていると、いつしか2時間も経過していた。


すげーな私、やれば出来るじゃないか。


隣に座るクリスは何をしてるのかと見てみれば、何やら奇天烈な表紙の写真集を見ている。

おいなんだ、それ。



「何の本読んでんの?」

「カブキの写真集を読んでる。結構面白い」

「また奇抜な本を……」

「カブキって、話が面白いなーと思って。ゴバンタダノブのゴバンって、何?」

「ゴハン?」



その会話を聞いていた高梨君が、ブブッと吹き出した。



「あ。ごめん。碁盤忠信は、囲碁で使う碁盤で……チェスみたいなもの、かな。その碁盤を使って囲んだ敵を薙ぎ倒した忠信は、源義経の家来だよ。あんまり現代の歌舞伎では、上演されないみたいだけどね」

「チェスで敵を?面白いな」



感心したようにクリスがまた、写真集に目を落とした。



私が受験生じゃなかったら、カラオケでも歌舞伎でも付き合ってあげ……無理か。

先生が許すはずないし。



でも、せっかく日本に来たのに、どこにも行かないで私の勉強に付き合ってるのは、可哀想だな……。

どうにかなんないかな……。





【クリスには、日本での楽しい思い出を作って欲しい】






そんな私の細やかな願いは、とんでもない形で実行される事になった。



………こんなのありえねえ!!!!