深層融解self‐tormenting

それを聞いて、居ても立ってもいられなくなった俺は、前々から計画は立てていたが、留学する予定を少し早めて日本に乗り込んだのだった。


「お前さ、日本語やたら上手いけど、どこで習った?」

「どこでって……。イタリアの日本語塾だけど。前から日本には留学するつもりだったし」

「お前、前からそのつもりだったのか?」

「だってそうだろ?いつカノンがあっちに来るかなんて分からないし、第一、それまで待てるもんか。だから、俺の方からカノンに会いに来た」

「……物好きな奴。向こうで遊んでた方が、楽しくないか?」



全然、と首を振って否定の意味を示した。



「日本の暴走族ってのは、イタリアのそれとはちょっと違う。イタリアのは、公道をどこでもレース場にしちまうだろ?」

「まあ。そこに道があれば、取り合えずどこでもレースになるかな。相手がいれば、ね」

「相手が、ね……。イタリアでお前らがやってんのに近いのは、アイツみたいな奴が得意にしてる。最近は主にサーキットが奴の狩り場らしいけどな」



アイツ。


カノンの事が好きだと、全身で表現した、アイツ。



「………カイ。アイツの名前、何て言うの?」


本来なら知りたくもないけど、カノンが呼ぶその名前を、呼び捨てにしてやりたい。


「……サクラ、アキ」


サクラ……?



「そう、木のサクラ。華音はアイツの事は『先生』っつってる。アイツあれでも高校の教師だから。華音と学校は違うけど」

「アイツ、先生だったの!?それで……」

「まぁ、いいから今日は何も考えないで寝ろよ。明日は荷物を整理するんだろ?手続きなんかもあるしな。黙って寝ちまえ」


カイに言われるがままベッドに横になったけど、色んな感情が混じりあってなかなか眠気は襲って来なかった。