深層融解self‐tormenting

「……お前に聞いてない。カノンに聞いてる」


カノンは困ったように少し眉を下げて俺に笑い掛けた。


「なるべく、早く帰るね」




違う。そんな顔を見たいんじゃないのに。



だけど、もう我慢しなくても良い。

今日からは、しばらくカノンと一緒に暮らせるんだから。






「何、日本酒が駄目だっての?これさぁ、わざわざ知り合いに言って、地方から持ってこさせた濁酒なのに?」

「……日本酒ってみんなこんなにアルコール分強いの?ドブロク?っていう銘柄なの?皆こんなの飲んでるんだ、日本人って」

「そうそう、それを一気に飲むんだよ」


カイがゲラゲラ笑ってグラスの酒を飲み干した。

でもまあ、ズブロッカよりは強くはないかな。


あのラリーの後、カイが運転してあの山を降り、途中でコンビニエンスストアで酒を買い込んでから家についた。

日本時間で言うと、今は夜中の1時をとっくに過ぎているらしい。




家についたらカイの部屋へ直行して、何故か宅飲み会が始まった。


カノンの家の親父さんは、今も出張とかで帰って来ないようだった。

土産に持ってきた酒は、既に三本ともカイに飲まれてしまったし。どれだけ飲むんだよ。




俺の荷物は手付かずのまま、玄関に放置されている。

使っていない部屋を明日掃除するから、そこを使えとカイが言ってくれた。


「アイツにも明日は手伝わせるし」

カイがカノンの事を話題にした刹那、また胸がチリッと傷んだ。

「……今日は、帰んないのかな……」

「帰して貰えないってだけだろ?」


俺の独り言はしっかりカイには聞こえてたらしい。

けど、さも当然のようにそう言うカイには、俺の今の気持ちが分からないんだろうか?