深層融解self‐tormenting

赤いキモノを着たカノンを、出来ればそのまま連れて帰りたかった。

扇情的に舞う蝶のようなその袖が、誰かを誘っているように見えて仕方がないんだ。



例えばアイツ。



サクラとか言うアイツ。

此れ見よがしに俺の前で、カノンにキスをした。



アイツにだけは、絶対に負けない。負けたくない。



俺はそこからカノンを連れて帰るまでは梃子でも動かないつもりだったのに、カイが邪魔をした。



「こうなったらアイツら絶対帰んないから、いるだけ無駄」と。


クルマに乗り込むその横顔を見たら、胸を焦がされたように切なくなってきて、俺は堪らず彼女を呼び止めた。



「カノン!」


彼女は「何?」と言いたげに、俺を見た。


その目に映るのが一人なら良いのに。




……俺だけで、良いのに。


「何時に、帰る?」


これは確認じゃなくて、カノンの意思を聞きたかったから出た言葉だ。

「早く帰るよ」……いつものように、笑ってそう言ってくれればいい。


そしたら、俺は……。


「今日は帰さねぇ」


それなのに、ソイツがまた、邪魔をする。