深層融解self‐tormenting

「……おい、凱!」

俺は当事者のくせに終始無言で事の成り行きを見守るソイツに声を掛けた。


「お前、こうなる事、あの時最初から分かってやがったな?」

「勿論。クリスからは最近、たまに俺に連絡が来てたしね。クルマをイタリアから日本へ運ぶ手配もしなきゃいけなかったし。それにほら、俺があの時言っただろ?『お前の思い通りにはいかなくて も、俺を恨むなよ?』ってさ。クリスは自分の家業を継ぐつもりだし、華音がもし婆さんのワイナリーを継いだら、二つの家のワイナリーを一緒に経営したいと考えてる。勿論生涯のパートナーとしてもそう考えてるらしいけど」

「……てめぇは……」

低く唸りながら、俺は凱を威圧した。

この野郎、あん時もう一発蹴ってやりゃ良かった。

「あの時の約束ごとは忘れてねぇよ。ただ、クリスが納得できるよう、お前が説得してみれば?」



俺の威圧をさらりと流して、なに食わぬ顔で凱が嘯いた。

………マジでこの野郎、喰えない男だ。





華音がイタリアに旅立ったあの日、PARADISEに行った俺は凱に直談判するつもりでいた。


「てめーがワイナリーの跡を継げよ」


そう言ってやるつもりだったのだ。


いや、これが普通に冷静に話し合いができるような兄貴だったら、俺も華音を交えて3人で、今後の事を話し合おうと場を設けただろう。


だが、血の気が多い凱は、狙いたがわず「喧嘩に勝ったら考えてやんよ」などと最初から臨戦態勢で。

結果として、俺は打撲や捻挫などで2週間の自宅療養、俺の蹴りを受け止め腕が折れた凱は入院。

綺麗にポッキリと折れてしまったらしい。