車体の向きを変え、下り坂の車線に入ると、あとはもういつも通りの日常が待ち構えている。


だから、このまま……――――。


「ちっ」


ぼんやり考え事をしていた私は、先生の舌打ちで我に返った。


「どうしたの?」

「……後ろにクルマ。……しかもコイツ……」


確かに後ろから車が来た。

しかも何故かライトをチカチカと点滅させている。


「……何、あれ」



何かを考え込んでいた先生は、私の質問に、少し時間が経ってから答えた。



「………バトルしようぜ、って意味」

「ふー……ひゃっ!?」

「……ランチア……デルタ!?嘘だろ!?」



いきなり先生が、アクセルを踏んで更に加速した。




逼迫した声で忙しなく車を操作する先生に、声を掛けるのが憚られる。

「おいしっかり掴まってろ!!」



投げ捨てるように一息に言葉を吐いた先生に、いつもの余裕は全く感じられない。


さすがに急加速した車に怖くなって目を硬く瞑っていたが、瞑る直前に見た景色からは臨界点を突破しているのが理解できた。