深層融解self‐tormenting

「ぶふっ…。お前、それ好きなの?」

はと、声がする方を見れば、弟サンの方がケーキに飛び付く私を見てにやにや笑っていた。


なんだよ、このロールケーキ滅多に手にはいらないんだぞ。小遣い少ないから手が出ないんだぞ。貧乏な高校生バカにすんなよ!!


「……今、切ってきますね!」


小馬鹿にして笑う弟サンは無視して、私はキッチンへと急いだ。

今食べたいすぐ食べたい!



こんな上質なスイーツに合うのは、やはり上質なお飲み物だろう。

何時だったか舞と一緒に行った紅茶専門店で買った、桜フレーバーの紅茶を三人分淹れてケーキを切り分けた。


残ったケーキは勿論独り占め。ああ、なんて幸せ。


きれいに拭いたトレイに、ケーキの皿と紅茶のカップを乗せて、居間に戻った。


「何だか逆にお気を使わせてしまって、申し訳ないわ」と、お姉さん。


「つーか、お前、人の名前も覚えてねーだろ?」と、図星をさす弟サン。

いや覚える気ないし。


「そんなこと、どうでもいいからさ、早く食べよ?紅茶も美味しいよ?」ニカリと笑って、それぞれに皿と紅茶を渡した。

だが、弟サンはケーキの皿を私に返して寄越す。


「?なんで?」


要らないの?勿体無い。


「俺甘いもの好きじゃねーし。お前が食え」


じゃあ、遠慮なく。


「……うちの姉さん助けて貰っといてなんだけど、お前さ、いつも不良とか相手に喧嘩とかしてんの?」


不意に真面目な顔をして、語りかけてきた弟サンの目は、怖いくらい真っ直ぐに私を射抜いていて、答えをはぐらかせるような雰囲気ではなかった。


「ん。うちの兄貴が昔とあるチームのトップ張ってたから、そのせいで未だによく絡まれる。大体は返り討ちにしてるけど」


事も無げにそう言うと、呆れたように溜め息をつかれた。


「アブねーだろ。仮にも女なんだし」