それだけですっかり日常に戻った私の生活。イタリアにいた一週間が夢だったように思える。



「おう。イタリアはどうだった?」

「ん。まぁまぁ。あんまりメジャーな観光スポットなんか行かないしね」

「んーだそれ?可愛げねぇなぁ。泊まった近くに、そう言う歴史的なもんとか無かったのか?」

「あるよ。ピサの斜塔」



あっけらかんとして言い放つ私に、鎌崎先生は呆然とした。


「え?ちょっ……羨ましっ……!!」



そう言えば鎌崎先生は、歴史の先生だもんね。



「他にサンタ・マリア・デル・フィ オーレ大聖堂とかウフィツィ美術館とか?だってトスカーナ州だもん」

「……メディチ家の宝物っ……!!」



すっかり歴史の虜になってしまった先生は、キラキラと目を輝かせてルネサンス時代についての考察を述べている。鎌崎先生へのお土産は、フィレンツェの生写真だけで充分そうだな、こりゃ。


でも駄目だ駄目だ。今は、妄想から鎌崎先生を引っ張りあげないと。



「せんせ。で、今日は進路の事で来たんだけど」

「あ?おう、そうだったな。で、お前としては、昨日電話で言ってた通り、進学……で、いいんだな?」



鎌崎先生が確認の意味で質問してきたから、私は力強く頷いた。

「昨日、あれから前年度までの資料やネットで調べたんだけどな。F大辺り、どうだ?」

「……そこは、どんな大学ですか?」


F大。とりあえずは家から通える距離だし、お父さんは私の進路については「自分が好きなようにして良い」と言ってくれた。

だから、進学しようと決めたんだけど……。F大ってどんなとこ?


「うん。そこに『果樹経営学部』ってのがあるんだよな。そこなら、お前の将来役にたつんじゃないか?」



果樹経営学部……?