「……女に顔覚えて貰えなかったとか、俺初めてだ。なんかすげーショック……」

だって、私の回り、そういう奴等ばっかりなんだもん。

顔は良いのに喧嘩三昧だった兄貴とか、女の人には鬼畜な春臣とか、鷹觜先生とか……?

あと喧嘩を吹っ掛けてくる不良の皆さんとか。一回会っただけの男の人の顔なんて覚えてらんないや。


「あ、でもお姉さんの顔はちゃんと覚えてるよ。立ち話も何だから、どうぞ上がって下サイ」


少しぎこちなく家に上がってくれるように促すと、二人は躊躇しながらも上がってくれた。

その間、お姉さんの弟の視線が目茶苦茶鋭くて痛かったのは、絶対に気のせいではない。



「喧嘩、とても強いのね」



お姉さんが軽く笑いながら話しかけてきた。
お姉さんの笑顔は不思議だ。

美人なのに嫌味がなく、まるで花が綻ぶように。

「喧嘩…は、昔ヤンチャしてた兄のせいで、よく不良に絡まれるから。だから、この前の事も気にしなくていいよ、お姉さん?」


お姉さんは、またふふ、と笑うと「女の子なんだから、無茶はしないでね」と言った。


「それからこれ、お口に合うか分からないけど……」


と言って、お姉さんが差し出してきた箱を見ると、テレビでもよく紹介されている洋菓子店の塩キャラメルロールケーキで。

実はこれがテレビに出る度に涎を垂らして観ていたりもしてて。


「うっ…あぁぁ!!ロールケーキだぁぁ!!」


お客さんの前だと言うのに、浅ましくも箱に飛び付いてしまった。

それはもう満面の笑顔で。もしかしたらまた涎なんか垂らしていたかも知れない。