「……私は、もう少し勉強したい」


クリスの方を見ず、風に揺れる葡萄の葉を眺めながらそう言った。

「もう少し日本に残って、いろんな事を勉強したい」

昨日ここに来て、それを強く感じた。



「それは、カノンが好きなヤツと別れたくないからじゃねぇの?」

疑うようなクリスの視線を、真っ向から見つめ返した。


「違うよ。それは考えてない。けど、私が何も知らないままでここに来たくない。最小限の事でも良いから、学んできたいんだ。それはここに来て強く思った」

風だけが、かさかさと音をたてる中で、私とクリスはしばらく見つめあった。

「そっ…か。でも、まだフラれた訳じゃないし」

「その事も、ごめん。好きな人は一人しか、いない」

そっか、と上を見上げたクリスの目には、何が映っているのだろう?

「ま、いつか見に行くから。その相手を」

「ん。いつか絶対日本にも来てね。待ってるから」

私が立ち上がると、クリスも立ち上がった。

「明日はどこか行くのか?」

今までの会話が無かったかのようにクリスが聞いてきた。

「お土産屋とか買いに、フィレンツェまで行こうかなって思ってる」

「じゃ、明日はついてってやるよ」

にや、と笑って肩を叩かれた。

「……じゃないと日本人はカモにされるって」



そんなバブルな日本人が今時いる訳ないじゃん。