無駄に広い!そして暑い!


どこまでも続く葡萄畑の中を歩きながら、どれが目指すグレコなのか分からず、ただひたすら彷徨っていた。



こんな事ならあのお姉さんに聞いときゃ良かった……。


と、ふと見るとフェンスで囲いを作られている一角があって、そこには「GRECO」と書いてあるではないか!呆気なっ!



クリスは午前中いないみたいだし、こっそり食べちゃっても大丈夫だよね?



農場関係者に見つからないように木に隠れながらグレコの木に辿り着いた。


まだ収穫には早いから、多分しぶくて固いんだろうけど。


木に手を伸ばして一房取ろうとしたら、何者かがその葡萄を取り上げた。


「葡萄泥棒」



くすくす笑って私を見ているのは、昨日とはうって変わって穏やかな顔をしたクリスだった。




「何してんの?」
「……敵情視察……。塾はどうしたのさ?」

もう終わった、と笑ってクリスが葡萄を差し出した。一粒食べてみたけど、やっぱり酸っぱい。



「グレコが気になるって、やっぱり後を継ぐ身としてはそう思うだろうな」

「……まだ、決め……」

「……俺はさ、カノンと一緒に、二つのワイナリーを一つにして大きくしたいんだ。だってさ、カノンは高校を卒業したら、こっちに戻って来るんだろう?だったらパートナーとして一緒にやらないか?分からない事は教えるからさ」



一息にそう言い切ったクリスは、自分もグレコを食べて「酸っぺ!!」と吐き出していた。