深層融解self‐tormenting

だってワインの蘊蓄を語れるほど飲んだ訳じゃないし、葡萄を食べたってワインの味を当てられる程じゃない。………それが自分で分かってるからさ……。


「お嬢さん、今日はお一人かい?」


一人歩く私に声をかけてきたのは、ファビオだった。

「うん。一人で葡萄畑を探検する」

「いつまで経っても変わんねーな。点検じゃなくて探検か。それじゃまだまだだな」


むか。言われなくても分かってるよ!


「……お婆ちゃんから問題出された。飲んだワインの葡萄を当てろって。出来た年まで当ててみろって」


むすくれてファビオを見上げると、やれやれと苦笑して肩を竦めた。


「赤、それとも白?」

「白」


それじゃあ、と言ってファビオはある一方を指し示した。



「旦那さんと奥さんが、白の中でも贔屓にしてたのはあの木だ。行って味見して来い」

「……そんなの、あるの?」

「……『白はカノンに。赤はカイに』ってな。口癖のように言って大切に育ててた木が一本ずつあるんだ。おい、これは大ヒントだからな。奥さんに漏らすなよ」


そうファビオは笑って作業に戻って行った。


息をきらしながら丘陵を登ると、更にまた広がる一面の葡萄畑。だけど……。


私はこの風景を、見たことが、……ある?


小さい時の記憶なのか、体がこの先に何があるのかを、覚えている。