深層融解self‐tormenting

昨夜はクリスがあんなことをしたから、胸が疼いて眠れなかった。



あれは……。親愛のものでも友愛のものでもなかったように思う。

普通に恋人同士が交わす…キス?



イタリアに来た目的は、お婆ちゃんに将来の相談をする事だったはずなのに、どうもクリスに引っ掻き回されている気がしてならない。



実は今日、あの一面に広がる葡萄畑を見て色々と考えたのだ。



今の自分が飛び込みでお婆ちゃんの元へ来ても、何の役にも立ちはしないと。

それならば……。




そこまで考えて、思考はまたクリスに邪魔をされる。


クリスも私と同じ年。


彼はこの先どうするんだろう?






結局一睡も出来ないまま、朝を迎えた。


「今日はどうするの、カノン?クリスは午前中は塾に行くみたいよ?」


お婆ちゃんが朝ご飯の後のコーヒーを飲みながら聞いてきた。


「クリスはいいよ。葡萄畑に見学に行きたいな。いいかな?」


お婆ちゃんはにっこり笑って「ああ、いっておいで」と、何故か白ワインをグラスに注いで運んで来た。


「これがどの品種の葡萄か、お前に当てられるかどうか、試してみようかね。……ふふ。そうだねぇ…。何年物かまで当てられたら大したものだよ」


さも面白いとばかりに笑うお婆ちゃんに、ぷーっと膨れっ面を見せると、それを一気に飲んで、大きな鍔の麦わら帽子を被って外に出た。