春臣やうちの兄貴を見てたら、そりゃ男性不信にもなるってもんだよな、と、ぼんやり自分の部屋の天井を見上げたときに、携帯が鳴った。

今の時刻は午後7時。今日はどこにも寄らず、真っ直ぐ帰宅して、一人ベッドでぼーっとしていたところだった。

春臣からの着信。珍しい事もあるもんだ。春臣はあんまり私に電話を掛けて来ない。何の用だろ?

「はい、もっしー?」

『もっしーってなんだお前。ちゃんともしもし華音ですが、だろうが』


春臣は、そういうとこだけ現国教師っぽくてウザい。日本語の乱れがどうとか。

日本語の乱れを正す前にまず自分の貞操の乱れを正せ。


「煩いなぁ。何の用?」

『あぁ、お前さ、何日か前、大学前のコンビニで長い黒髪のおねーちゃんを助けた覚えはない?しつこいナンパから』


あ。そう言えばあったかも、そんな事。


「助けたかも。それがどしたの?」

春臣は、はあぁ、と大きく息を吐いたらしい。

『うん。そのおねーちゃんと弟さんがね、お前んちに今からお礼しに行きたいらしいんだわ』

「は?別にいらないよ?てか、あのお姉さん、春臣の知り合い?」

ぶふっと吹き出した春臣が『おねーちゃんじゃなくて弟とな』とか言ったから、あの綺麗な人が春臣の毒牙にかかってないことを知ってホッとした。


「でも、ホントに要らないよ、お礼なんて」

『うん。俺もそう言ったんだけどね。華音はどうせ喧嘩したくて首突っ込んでっただけだから、ってね。でも弟さんがどうしてもお礼しなきゃ気が済まないって言うんだよねぇ』



……何かある。



春臣がこういう含み笑いをするときは何か企んでる時だ。良くない予感がする。


『ま、着くのは20分ぐらい後だと思うけど、茶ぐらい出してやってね』

じゃ、と言って通話を切った相手に悪態をついた。


部屋片付けなきゃじゃん。


それからバタバタと部屋中の(と言っても居間だけ)掃除を慌てて終わらせて、お茶を入れるためにお湯を火にかけたらインターフォンが鳴った。



春臣の知り合い…。私も知ってる人?


「はーい」と、返事をして玄関を開けると、確かにあの時助けた美人のお姉さんだった。

よく見ると、お姉さんは病的なまでに肌の色が白い。もしかしたら、何か持病を持っているのかも知れないな、と思った。



そしてその横を、ふ、と見ると…。



「……どこかで会ったこと、ありましたっけ……?」


ちょっと待て?お姉さんの横に立つ、この男の人には確かにどこかで会ったことは、ある。と思う。


でもどこで会ったのかが思い出せない。



「はぁ!?お前、こないだ宮藤サンちで勉強見てやっただろーが!!まさか……俺の顔、忘れたとか言う!?」



忘れてました、えへっ。