こっそり手を離してその場から立ち去ろうとしたが、クリスにしっかり手を繋がれているので移動できなかった。



「クリス、このコ誰!?」


やがて私に気がついた一人の女の子が、まるで値踏みをするような目で私を見た。


「……カノン。俺の彼女」


紹介されてしまっては無関係を装ってても仕方がない。


とりあえずえへら~と、無害そうに見えるように笑ってみた。


「何よこのオンナ!!」

「ブス!」

「ありえなくね?」

まぁ、日本語に訳せばこんな感じの言葉が私に投げつけられた。

そんなにクリスが好きなのか。

でもあなた達、誤解ですから。私、日本にちゃんと彼氏がいますからね。


わざわざそう言って火に油を注ぐのも面倒だったから、彼女達には言わせるだけ言わせておいたけど。


だけど、それを一喝したのはクリス。


あっちに行け、とか、言葉を慎め、とかなんとかそんな事を物凄い剣幕で怒鳴っていた。

「カノン、取り巻きが煩くて悪かったな。もう言わせないから」

「いや、別に気にしてないよ?それより、レースって何なの?スピード勝負?」


実はさっき、クリスに『レース』と聞いて、少しウズウズしてた。

だってこういうの、先生が好きそうだと思ったから。


「じゃ、見ててよ。俺達が走るの」


こくりと頷いてサーキット場のコースを見ると、昼間のカルロが一台のバイクに跨がり、ヘルメットを被るところだった。