………でも私には先生がいるし。

もしクリスがそういう気持ちを持っていてくれたとしても、その気持ちには応えられない。



「カノンは、恋を始めたばかりなのかい?」


お婆ちゃんが私の髪を漉きながら訊ねてきた。


「……うん。付き合って、まだ3ヶ月ぐらい……」


お婆ちゃんはくすくす笑って、コーヒーを一口啜った。


「なら、今が一番楽しい時だろう?」



一番楽しい時……。

恋をするのが嫌になった事もあった。

でも、嫌になっても手離したくない。

そう決めて選んだ相手に後悔なんかしてる訳がない。



「……楽しい、よ。その人の事を思うと、胸がなんだかあったかくなるんだ」



お婆ちゃんは目を細めて私を見た。

その眼差しがいつも優しいから、私はいつもそれに甘えてしまう。


「いい恋を、いっぱい経験なさいな、カノン」


お婆ちゃんの手のひらと声は優しくて、ついつい微睡みそうになる。



その時、来客を告げるベルが居間に鳴り響いた。


「……クリスだろ?行っておいで」


そうだった。

夜に開かれる『集まり』とか言うやつに呼ばれていたんだったっけ。


「なるべく早く帰るね」と、声をかけて支度をしていると、もう一度お婆ちゃんに頭を撫でられた。


「ゆっくり遊んでおいで。クリスなら大丈夫」


そう言ったお婆ちゃんの頬にキスを一つして、私は玄関へと歩き出した。