深層融解self‐tormenting

「……何、それ。どういう事!?」と、憤慨したのは、あまりにもクリスが顔を近づけ過ぎたから。だってあの距離じゃ、まるで……。キスする時みたいじゃないか。



「ま、仲間の名前だけど、最初のベビーフェイスがベッティーノ、癖っ毛の奴がカルロ、スキンヘッドがエドアルド。みんな同い年だ。カノンは人の顔と名前を覚えるのが苦手なんだ。強烈な個性で頼む」



………そんなもん頼むな!!


だって怖い雰囲気丸出しなんだけど!

迂闊に近寄ったら取って食われるんじゃないかって雰囲気なんだけど!!

いくら私でもこんな奴等相手には出来ないってば。

凶器の類いは当然飛行機に持ち込める訳無かったし。


エドアルドと呼ばれたスキンヘッドの彼が、のそりと私に近づいてきた。


「人形みてーにちっせぇなぁ!」とか言いながら、ガハガハ笑ってギチィっと骨まで折れそうなぐらい固い抱擁をしてくれた。



ベッティーノは苦笑して私に手を差し出し「よろしく、お姫様」などと歯が浮くような事を言う。その手を恐る恐る握り返すと、今度は左頬にキスしてきた。

うん、これは友情のキスだ。よってノーカンにしよう。うん。



カルロとは、素っ気なく握手しただけで終わったのでホッとした。

これ以上何かされても困るし。もう、高校生の合コンなんか目じゃないぐらいにスキンシップとられたし。


もういいでしょ?



「クリス、もうそろそろ行かないと。お婆ちゃんが忙しいと、手伝わなきゃいけないから」


アグリツーリズモで、宿も経営しているお婆ちゃんの手伝いが気になった私は、そう言ってクリスを促した。


けれど。

「使用人がいるだろ?」

そう言って私の言うことを聞かないクリス。

しかも、私の右手を握ったまま離そうとはしない。