深層融解self‐tormenting

それを思い出して笑いながらアルバムから顔を上げると、意外なほど間近なところにクリスの顔があったから、思わず仰け反った。



クリスの指がすっと延びてきて、私の首筋を這う。


「………こんなに、痕残さなくてもいいのに」

「や、だからこれはわたしの」

「男が、って?分かってるよ」


冷たく、ふん、と笑うクリス。




そして途切れてしまった会話。


沈黙を破ったのはクリスだった。



「仲間に、カノンを紹介する」




クリスにも可愛い彼女とかいるのかな?いや、やっぱりもしかしたら兄貴と一緒で、テキトーに遊んでるんじゃないか?



興味が湧いた私は「いいよ」と、軽く答えた。途端に腕をぐい、と引かれて立ち上げられる。



「今から行くぞ」


なんで今から?





そのまま家の脇に連れてこられ、車庫にでも置いていたのか、やたらデカくて煩い単車に乗ってきたクリスが、私にヘルメットを手渡した。いやまさか、これに乗れと?


「それ被って、乗れ」



親指で単車の後ろを指しながら、クリスがそう指示した。


えー?お婆ちゃんには言ってきてないのに。

「カノンの婆さんなら全部知ってる。てか、ちゃんと言っといた」

「お婆ちゃん、知ってんの?」

「ん。だから早く」

乗れ、と、今度は服を引っ張られて無理矢理乗せられた。私が乗ると、バイクは轟音を響かせて、穏やかに続くブドウ園を後にした―――。