トルタとは素朴なパウンドケーキみたいな生地の中にカスタードクリームを挟んで、松の実を振り掛けて焼き上げたものである。

これを切り分けて食べるんだけど、切り口からトロリとカスタードが垂れるとこを見るのは、何とも言えない至福の時間。



ただ残念な事は、お婆ちゃんも含めて皆コーヒー派しか回りにいない事だ。

イタリア人だから当たり前だけど。

どんだけ焦がすんだ!?ってぐらいに煎った豆を使って更に濃く淹れたコーヒーに、更に砂糖をどっぷり入れる。

底に溜まった砂糖をスプーンで掬って舐めるのが良いって皆は言うけど、私には苦すぎる。



お店に行って紅茶なんか注文しようものなら、お湯とティーバッグだけ渡されたりして、そういう時は日本茶や美味しい紅茶が飲みたくなる。


私が紅茶好きなのは、実はこれに由来している。

だってコーヒーって言ったら苦いイメージしかないもん。




「……カノン、それ友達にやられたのか?」



無言だったクリスが、ぶっきらぼうに私に尋ねてきた。


「それって、何のこと?」


質問の意味が分からず、質問を質問で返す。


「首の赤いやつ。日本人も親愛表現に、そこまでやんの?」


首の赤いやつ?あ、これは……。


「あー……。彼氏につけられた」


照れ隠しに、あははと笑って誤魔化したつもりが、どうやら墓穴を掘ったようだ。



「カノン、そういう人がいるのかい!?」


と言って驚くお婆ちゃん。そして。




「………このまま帰さねぇ………」


と、低く唸ったクリス。



あれ、私また何か踏んじゃった気がする。

…………ヤバイ地雷踏んじゃった?