だからあの。


「あー…と。クリス…さんって、誰…だっけ?」



それに大爆笑したのはお婆ちゃん。

「ほら、やっぱりね!」と、自分の予想が当たったことが嬉しいようだ。

「カノンは昔から、人の顔を覚えるのが苦手なのよね!」などと、まだ楽しげに笑っている。



「……昔、うちのブドウ園で遊んだだろ……」


不機嫌そうにそう言う『クリス』の横で、運転手さんが困ったようにバックミラー越しの私を見た。



「……ブドウ園……クリスの家も作ってるんだっけ?」

「あらやだ、隣の農園のクリスよ。カノンと同じ年で、小さい時、たまにあなたが来るといつも一緒に遊んでたじゃない」


いたっけ?そんな奴。


……やっぱり思い出せない、ごめん。


「今日はどうする?うちにまっすぐ帰るかい?それとも久しぶりにフィレンツェでも見ていく?」


お婆ちゃんの言葉に一も二もなく「家に帰る!」と答えた私。



だってお腹空いたし。

お婆ちゃんが作ってくれる、スープにトスカーナパンを入れて食べるリボリータとか、同じくトスカーナパンをトマトソースに加えて食べるパッパ・コル・ポモドーロはすごく美味しい。

その後出してくれる、お婆ちゃん手作りのトルタも。