昨日の夕方の便で、華音がイタリアに旅立ってしまった。




見送りには親父さんが着いていったから、俺は一昨日さんざん鳴かせて見送った。


ついでに忘れずに、一週間じゃ消えないぐらいのマーキングも付けておいた。


あんだけ喘がせてれば飛行機の中では、疲れてずっと寝たままだろうな。





で、それはさておき。


俺は今、「PARADISE 」という店の前に来ている。

時刻は夜の8時。

今日はもう店じまいしたこの店に何の用事かと言うと、ここの店主に話があるわけなのだが、ここの店主は「こういうやり方」じゃないと真面目な話にはのってくれない。


だからわざわざここまで来たのだが。



……さすがに緊張する……。


それでも、と、緊張する手を上げて店のドアを開けると、カランカランと昔懐かしいカウベルの音がした。


「あ、ごめんねー。今日は……」


閉店を告げる台詞は途中で固まった。




カウンターの奥にはタバコを銜えた店主。


店内には目付きの悪いやんちゃ坊主達が2~30人ほど。

丸坊主の奴、歯がない奴、様々だ。



おいおい、まさかここで幻覚見れそうなヤバいヤツヤってねーよな?ヤってたら俺マジでヤバイんだけど。

いや、ヤってなくても多分今日は無事では帰れねーよな。フクロとか絶対嫌なんだけど。


「てめ…何しに来た?」


威圧感を込めてそう吐き出したのは、店主ではない。確か、遊馬とか言うツレの方だ。

「……凱に話があって来た」

そう。今日は華音の兄貴、凱に話があるからわざわざ来たのだ。