ザァァァァッ…
虚しく響く雨音が耳を刺激する。
地面に落ちて跳ね返る滴がスローモーションに見えた。
俺は車が来るのを待った。
…なぜだろうか。
雨が降ると、なぜか君が泣いているようで。
思い出す度に胸が無性に痛んで、雨が打ち付ける音、匂い、淀んだ空気の中にいるだけで、吐き気が俺を襲うんだ。
もう……過去のことだというのに……。
「翔太さま」
「……っあ…」
俺の専属運転手の水戸部が、雨の日にも関わらず、整えた髪と、着れ長い目に被さる銀縁眼鏡を光らせて立っていた。
「……悪い、家まで頼む」
「かしこまりました」
開けられた黒いリムジンのドア。
俺は中に乗り込み、背もたれに寄りかかり、息を吸った。
「では、出発いたします」
水戸部の声もいつも通り聞き流し、雨に濡れた窓をただぼんやりと眺めていた。