「適当に座っとけよ。」



稀里は私をリビングのソファーに座らせ、台所へ向かって行った。




何も変わっていないな。




あたしと母さんがいたあの頃とほとんど変わっていない。


無いものと言えば、あたしのお気に入りだった人形の飾り物が無いこと。

母さんのエプロンが掛かってないこと。




あたしと母さんだけが居なくなったみたいだ。



「おらよ、ココア。」



あたしの目の前にアイスココアが置かれる。



「お前、昔ココア大好きだったよな。」


稀里兄が隣にすわる。



お互い目は合わさないまま、言葉だけを紡ぐ。




「そんなの、覚えてない。」



嘘。本当は覚えてる。


パパの作ってくれたココアが大好きでそれを飲みたいが為によく駄々をこねた。