それでも、俺達にとっては大きな旅であり、大人に近付く為の一歩となる。
踏み出す為の一歩。
こういう小さな経験の積み重ねが、未来に繋がるのだから。
何も経験しないまま、大人になれる訳じゃない。
何もないまま大人になったとしても、きっと、空っぽの大人になるだけ。
いろいろなことを経験して、大きくなっていく。
それが、今の俺にとって必要なこと。
「ユウキ。」
「ん?」
「今日は、いっぱい楽しもうね。」
「そうだな。」
今日という日は、もう2度と訪れない。
今日が終われば、明日になる。
同じ日は、1日もないから。
ならば、楽しもう。
今日という、1日しかない日を。
最高の1日になりそうな予感がした。
ガタン。
ゴトン。
電車に揺られること、3時間近く。
車窓の景色が、目まぐるしく変わっていく。
途中で乗り換えの為に電車を降りて、別の電車に乗り移る。
ターミナル駅はすごい人だかりだったから、隣にいる茜の手を引いて。
はにかんだ茜が、俺の手を握り返す。
「ユウキ、ありがと。」
「いいよ、別に。人が多いから、気を付けて。」
「分かった!」
こんなに長い時間、電車に乗った経験はなかった。
だから、少し不安でもあったんだ。
飽きないだろうか。
暇はしないだろうか。
そもそも、乗り換えの電車にきちんと乗れるだうか。
しかし、そんな不安は、すぐに消えた。
「ユウキ、お菓子持ってきたんだけど………食べる?」
「茜、悪いな。1個、ちょうだい。」
「あー、紺野のクセに!イチャつきやがって………腹立つ!!」
「うるせー、矢田。付き合ってんだから、別にいいだろ。」
むしろ、まだキスだってしてないし。
健全なお付き合いをしているつもりだ。
我ながら。
プラトニックだっつーの。
