茜の口から聞く、茜の過ごした5年間。


離れていた間も、茜は俺のことを想っていた。

俺のことを待っていてくれた。



でも、俺は、その気持ちには応えられない。



俺は、茜のことを見ていない。

もう、茜のことを見てはいないのだ。


ふとよぎるあの子を想って、言葉を紡いだ。



「俺の中で、茜とのことは………もう過去のことなんだよ。茜とやり直すことなんて、考えられない。」


答えは、始めから決まっていた。

問われるまでもなく、決まっていた。


他に好きな子がいるのに、茜と付き合うことなんて出来ない。

自分に嘘をついてまで、茜を選ぶことなんて出来ない。


そんな器用な人間なんかじゃないんだ、俺は。



俺が好きなのは、天宮だ。



教室の端で、いつも本を読んでいた女の子。

先生に褒められるほど、絵が上手かった女の子。


姿形は大人びて成長していても、天宮はあの頃のままだった。

すれることなく、中学生だったあの頃のままでいてくれた。


俺の心を掴んで離さないのは、天宮だけ。

あの頃も、そして今も。




「俺、他に好きな子がいるから。その子のことが、すごく好きだから………茜とはやり直せない。」


ごめんなと最後に一言そう付け加えて、茜を見る。


茜とこうして2人きりで会うのも、きっと今日が最後になるだろう。

もうこうして話すことも、この先はないだろう。



「ふふふっ、ユウキは正直だね。そんなとこも、好きなんだけど。」


そう言って、茜が立ち上がる。


茜の向こうに、青い空が見えた。

よく晴れた、スカイブルーの色が見えた。



「バイバイ、ユウキ。………しつこくして、ごめんね。」

「茜………。」

「今度、もし会える時があったら、その時は笑っててね!」


悲しいくらいの青に、茜の後ろ姿が吸い込まれていく。


その青が眩しくて、俺は思わず目を細めた。