どうして、もっと早く気付かなかったのだろう。
もっと早く気が付いていたのならば、変わっていたこともあったはずだ。
きっと、多くの人を巻き込まずに済んだ。
傷付けずに済んだ。
未来だって、変わっていたのかもしれない。
湧き上がるのは、焦り。
気持ちを自覚した途端に、焦燥の念に囚われる。
俺は知っていたから。
分かっていたのだ。
俺と天宮には、残された時間が少ないのだということを。
(時間がない………。)
5年前とは違うんだ。
俺と天宮が置かれている環境は、あまりにも違う。
あの頃みたいに、同じ町に住んでいる訳じゃない。
同じ学校に通って、毎日顔を合わせている訳ではないのだ。
次に会えるのは、いつのことになるのだろう。
次、なんて分からない。
もしかしたら、これが最後になるのかもしれない。
この町を離れた天宮は、よほどの理由がなければ、遠く離れた今の街からわざわざここになんて来ないだろう。
次に会える時なんて、永遠に来ないかもしれない。
もし、その時が来なかったらーーー………
考えるだけで怖い。
俺は、何も知らないんだ。
天宮のこと、知らな過ぎる。
3年間も同じクラスだったクセに、知っていることは数えるほどだ。
絵が上手いということ。
本を読むのが好きだということ。
今は、別の街に住んでいるらしいこと。
俺が天宮のことで知っていることなんて、きっとそれだけ。
好きなもの。
好きなこと。
連絡先。
今の天宮に関することを、俺は知らない。
俺に残された時間は、あとどれくらいだろう。
天宮と一緒にいられるのは、あとどれくらいなのだろう。
伝えなければ。
伝えたいことがある。
5年前、言えなかったこと。
今の俺が言いたいこと。
あのチョコレートのお礼だって、まだ言えてない。
ずっと言いたかったお礼の言葉を、ゆっくりと口にした。
