助けて。
そう、言われた訳じゃないのに。
どうしてだろう。
助けなきゃって、そんな気持ちに駆られる。
だから、俺は見てたんだ。
天宮のことを。
天宮を取り囲む、女子のことを。
助けたいと思っていながら、見ているだけだったけれど。
「別に、何でもない。………っていうか、矢田は何でここにいるんだよ?」
心に広がる闇。
その闇を振り払いたくて、俺は矢田が立つ方へと向き直る。
俺の視界から、女子の集団が消えていく。
小さくなった天宮の姿が消えていく。
「ほら、昼休みだし。親友の紺野くんのとこに遊びに来たんだって!」
「は?」
嘘臭い笑顔に、嘘臭い言葉。
ああ、この男ほど分かりやすい男もそうはいないだろう。
矢田の魂胆なんて、お見通しだ。
矢田は1年の時から、増渕を気にしていた。
わざわざクラスメイトだった天宮と比較してまで、増渕のことを持ち上げて褒めちぎっていた。
それなのに、今年も矢田は、増渕とは別のクラス。
増渕の名前すら知らなかった俺は、何故か増渕と同じクラスになって。
それこそが、矢田がこのクラスに来る、本当の理由。
俺に会いたい為だけに、2年1組に来てるんじゃない。
矢田は、増渕の顔が見たくて来てるんだ………おそらくは。
(全く、矢田らしいというか、何というか………。)
好きな女の子には、とことん真っ直ぐな男だ。
その分、他のことが疎かになるのが悪い点だが。
それでも憎めないのは、天性の人懐っこさを矢田が持っているせいか。
「バーカ。」
「な、な、何だよ!?」
「紺野くんとか、今更お前が呼ぶなよ!気持ちわりーだろ。」
俺の冷たい一言に、矢田の笑顔が一瞬凍る。
あー、面白い。
単純明快な矢田の反応が、俺の笑いを誘う。
