今も。
これから先も、ずっと。
私は松島くんのこと、そういう風には見られない。
「じょ、冗談………きつい………」
「冗談じゃないって、本気!」
その言葉の、何を信じろと言うのか。
あの頃の松島くんのことを知っているのに、今更、そういう目で見ろと言うのか。
松島くんがあの頃と変わって、いい人になっていたとしても、松島くんの本気だけは受け取れないだろう。
私は。
「とりあえず、飲もっか。」
「あ、うん………。」
「天宮は、ビールがいい?それとも、カクテルみたいな甘いのがいい?」
「ビールで………お願いします。」
「りょーかい!」
徐々に距離が縮まっているのは、気のせい?
だんだん近くなっている様な気がするのは、勘違いだろうか。
どんどん後退りする私に、周りの女の子が囃し立てる。
「ちょっと、何で天宮さんのこと、口説いてんのよー!」
「そうだよー、そうだよー!」
「もしかして、本気で天宮さんのこと、狙っちゃってんの!?」
冷やかす声に、松島くんが不気味なくらいに微笑みながら、その言葉を肯定して頷く。
「あー、うるせー、うるせー!天宮と話したいんだから、お前らは邪魔すんじゃねー。」
「ちょっと待ってよ!うちらだって、楽しくみんなで飲んでるんだから。」
「女子会なんだから、邪魔なのはあ・ん・た!!」
ダメだ。
抜け出せない。
意外な展開とおかしな空気を纏いつつ、時間は流れていく。
彼との接触は、ないままに。
視界の端には、ずっと2人の影がちらついていた。
忘れられなかった人と、その人が大切にしている人。
私の手が届かないところで、輝いている2人。
見たくなかった。
現実を。
出来るなら、夢を見ていたかった。
叶うことのない、夢を。
視界に入り込まない様に、わざと背中を向けた。
近付くこともなく、言葉を交わすこともない。
それが、あの頃と変わらない、私と紺野くんの距離だった。