「こっち来ないでよ!」
私を避けないで。
私のことを嫌わないで。
小学生の私が叫んでる。
誰にも届かない叫び。
誰にも聞かれることのない言葉は、私の中だけで響いていく。
飲み込んだ言葉の数だけ、傷が付く。
目には見えない、赤い血が心から流れ落ちる。
あの言葉を言ったのは、彼女。
磯崎 紗由里。
私が、世界で1番嫌いな女の子。
小学生だった私をいじめていた、その人。
彼女の名前は、私を心の底から震えさせた。
(磯崎さんと同じクラスって、嘘………だよね?)
お願い、嘘だと言って。
私の見間違いなんだって、誰か笑ってよ。
だけど、そんな都合のいい願いは届かない。
何度も何度も、クラス分けの紙を見る。
目を擦って、何度も何度も繰り返して。
でも、変わらなかった。
結果は同じこと。
並んだ3人の名前が、くっきりと目に焼き付いていた。
紺野 有樹
天宮 春奈
磯崎 紗由里
目を擦って見直しても、頭を横に振ってみても、並んだその名前は同じ位置。
悪夢は、あれだけじゃ終わらなかった。
むしろ、私にとっては、両親の見慣れた喧嘩よりもこっちの方が衝撃が大きかったのだ。
あの子と同じクラスになる。
私をいじめていた磯崎さんと、また同じクラスになってしまう。
それは、何よりも恐れていたこと。
始業式の朝に見た夢は、いじめられていた頃の夢。
孤独な私の、封印していたかった過去。
悪夢でしかないその夢は、今、この瞬間から現実のものとなる。
あの夢は、きっと少し先の未来を教えたかったんだね。
どうにもならない現実を教えてくれようとして、神様が私に見せてくれた夢だったのかもしれない。
季節は春。
大好きな人と出会った季節に届いたのは、残酷な知らせ。
