別れというものは、こんなにも胸を締め付けるものなのか。
人と出会い、そして別れていく。
人生で何度も経験していくであろう出来事を、今、俺も身をもって経験しているんだ。
「今日で卒業なんて、早いよー!!」
「もう、みんなと毎日会えなくなるなんて………。」
体育館の前に整列していれば聞こえてくる、そんな声。
別れを惜しむ言葉の数々。
言葉遣いと声の高さからいって、同じ卒業生の女子の誰かなのだろう。
振り返っていないから、それが誰であるのかまでは判別出来ないけれど。
「やだ………、そんなの、寂しいよ………!」
「そんなこと言わないでよ!こっちまで、悲しくなるじゃない………。」
すすり泣く声を背に、俺は無言だった。
何も感じていないんじゃない。
むしろ、その逆だ。
押し寄せる感情を抑えることに必死で、このまま感情を抑えておける自信が俺にはなかった。
気を抜けば、泣いてしまいそうで。
女々しく、涙を溢してしまいそうで。
滲んでしまいそうな涙を、歯を食い縛ることで耐える。
「卒業生、入場。」
体育館の中から聞こえたマイクの音声に合わせて、鉄製の扉がゆっくりと開いていく。
1組から入場が始まるから、俺のクラスは真っ先に体育館の中に入ることになる。
男女入り交じってのあいうえお順に並んで、入場していく。
そこに、あの子の姿はなかった。
(天宮、やっぱり………来ないか。)
彼女の姿を見たのは、いつのことだっただろう。
そう。
あれは、冬になる少し前。
学校祭の日だ。
保健室の前で、橋野と言い争っていたのを見たのが最後だった。
俺の中での、最後の天宮の記憶になっていた。
それ以来、天宮を校内で見かけることは1度もなかった。
天宮が教室に顔を出すこともなければ、偶然でもすれ違うこともなかったのだ。
聞きたいのに、聞けないままだ。
