私は保健室に逃げることで、橋野さんは教室で孤独になった。
1人で、あの場所に取り残されることになった。
好きなのに、結ばれない。
私と同じ気持ちを抱いて、あの場所に通い続けなければならなくなった。
殻に閉じ籠もることで、私は楽になれたけど。
束の間、解放されたつもりでいたけれど。
その陰で、更に孤独を背負う人間が増えていたのだ。
それが、どんなに自分勝手な感情だったとしても。
相手にとっては、一方的な感情だったとしても。
誰にも開けられない様に、慌てて保健室のドアを閉めて、鍵をかけた。
ガチャンと閉まる、保健室の鍵。
急いで舞い戻った保健室の床に、私はガクッと崩れ落ちた。
「開けてよ!開けなさいよ………、卑怯じゃない!!」
閉じ籠もる私が、卑怯なのか。
ずるい人間なのか。
ドアの向こうからは、私を罵る橋野さんの声。
知らず知らずうちに、涙が1粒、溢れる。
巡る言葉。
彼女が放った言葉。
「ねえ、いつまで逃げてるつもり?」
彼女の本音。
「磯崎さんなら、もういないよ。」
知らされた、意外な真実。
「磯崎さんは3年に進級する時に、転校したの。だから、3年1組には、磯崎さんの名前なんてない………。」
知らなかった。
知らなかったの。
あの場所に、私を苦しめていた原因となる人がもういないだなんて。
「天宮さんはずるいよ。………ずるいんだよ。」
「紺野くんを好きなのは、天宮さんだけじゃない!」
私だけじゃなかった。
そんなこと、分かっていたのに。
分かっていたつもりになっていただけだ。
「友達なら、………だったら、1人だけ逃げるなんて………許さない。」
友達だと思ってた。
心を分かち合う、そんな間柄だと思っていた。
しかし、それこそが一方的な思い込みだったのだ。
現実は、私が考えているよりも、ずっと容赦のないものだった。
