美術の授業があったあの日みたいに、水をわざと溢された訳じゃない。
殴られた訳でもない。
ちょっと、話をしているだけ。
ちょっと、席の周りを囲んでいるだけ。
そのちょっとのことが、私の心を圧迫している原因であるのは否めないけれど。
話をしている側は、そうかもしれない。
ちょっと話をしているだけ、と。
でも、話をされている側も同じだとは限らないのだ。
話をされている側も、話をしたいと思っているとは限らない。
好意的に、話を聞いているとは限らない。
その話に、その行為に、恐怖を感じているかもしれない。
嫌悪感を抱いているかもしれない。
それは、本人にしか分からないこと。
どう受け止めているかなんて、他の誰にも分からない。
私しか、知らない。
少なくとも、私は磯崎さんと話がしたいだなんて、これっぽっちも思っていない。
怯えた目が潤む。
抑えていた感情が、泉の様に溢れ出して止まらない。
今まで、誰もこのいじめに関わろうとしてくれた人なんていなかった。
加害者の側が増えることはあっても、私と同じ側になってくれる人なんていなかった。
1人だったんだ。
1人ぼっちだったんだ。
学校でも、家でも、私は常に1人だった。
橋野さんだって、分かっているはずだ。
私の側に立ってしまえば、自分がどうなるかを。
磯崎さんに歯向かえば、自分も同じ目に遭う。
私と同じ様に、いじめられてしまう。
あることないことを言われて。
上手くやっても、結局はいじめられて。
何をしたって、認められない。
どん底からは這い上がれない。
男子だったならば、それも少しは違うのだろう。
しかし、橋野さんは女の子。
磯崎さんや私と同じ、女の子だ。
